お問い合わせフォームから時々いただく質問です。
「まだフルメタルヨーヨーは早いと言われました」
「フルメタルヨーヨーって、どのくらい上達したら使っていいんですか?」
昨今はヨーヨーの発展も目覚ましいですが、同時にこんな悩みを抱える方も居るようです。練習会なんかでも「自分にはメタルは早いので…」といって敬遠する方は珍しくありません。
そんな方々の解決の手助けに、そして「早い」とアドバイスを送る方々への提案となればと思い、今回のコラムを書きました。
ここから先は、あくまで1人のプレイヤーとしての意見です。他を意見を糾弾することを目的とした記事ではありません。そのことを踏まえてお読みください。
競技ヨーヨーは、デザインだけでなく、中身もいろんな種類のものが増えました。
一昔前は固定軸かプラスチックスプールだけ。今はボールベアリングが主流で、しかも玉の数や等級、形まで種類はさまざま。初期搭載されているボールベアリングも高品質なものが多く、初期状態から競技会でも使えてしまうくらい高性能な、いわゆる「開けポン」で使えるヨーヨーが増えました。
ではヨーヨーは、どのタイミングで違うものに切り替えていくのでしょうか。
2014年現在、日本では引き戻しのノーマルシェイプのものを奨められることが多いでしょう。その次は初期状態でバインドになっているプラスチックヨーヨー、それと同時にルーピングに特化したヨーヨー。その次に金属ウェイト搭載機種、このあたりでオフストリングヨーヨーやカウンターウェイト用のウェイトを手に入れる。そうしてようやくフルメタルヨーヨー…といったところでしょうか。
途中でスタイルが分かれるものは別として、最大で3ステップくらい。しかし実はもうちょっとだけ細分化できます。
最初に選ぶフルメタルヨーヨーは5000円程度、またはそれ未満の安価なもの。次に10000円程度、またはそれを超える高価なもの。最後に20000円程度、またはそれを超えるバイメタル。バイメタルとは、2種類の比重がそれぞれ異なる金属を使用している、最近流行しているタイプのフルメタルヨーヨーです。
さらに分けるのであれば、国産やチタンのものも加えられます。ここまでで最大で5ステップ以上になります。
これを踏まえて、細かくステップを踏むとき、踏まないときのメリットを考えてみましょう。
これはよく「○○と言われたから、フルメタルヨーヨーは自分に早いと思いました」というものも含んでいます。
もちろん例外もありますが、基本的には…
ステップを踏むメリットは、ヨーヨーの扱いがうまくなる。
ステップを踏むデメリットは、必要な経費(お金)と時間が増える。
ステップを踏まないメリットは、必要な経費(お金)と時間が減る。
ステップを踏まないデメリットは、ヨーヨーの扱いを覚えるのに時間がかかる。
…と、このようなパターンが考えられます。
「ヨーヨーの扱い」について、これはトリックができる・できないだけではありません。あくまでヨーヨーの『扱い』です。
ヨーヨーがどうした原理で回るのか、どういったパーツがどんな役割を果たしているのか、といったことを知ることは、意外と役に立ちます。トリックの上達だけでなく、スリープを最大限に伸ばしたり、自分好みのヨーヨーを選んだりセッティングしたり。最低限の性能をもつヨーヨーを使用することで、いかに工夫すれば性能を最大限に活かすかを自然と考えるようになり、ヨーヨーに関する総合的な知識や技術が身につきやすくなります。
しかし問題はお金と時間です。
ヨーヨーのトリックは複雑です。スリーパーは、正しい向きでヨーヨーを握って、力こぶの姿勢からヨーヨーを振り下ろす…だけではありません。正しい向きとは何か、その理由は、腕の角度、振り下ろすときの角度、勢いや力加減、手を離すタイミング、ストリングが伸びきるまでの体勢と、伸びきる瞬間の体勢、そこからスリープを持続させるための体勢を知る…とまあ、いろいろと複雑な行程を経て、初めてスリーパーができます。
トラピーズは横に投げて、指を出して、乗せる…だけではありません。投げるコツ、途中でスリープが止まらないコツ、ヨーヨーを乗せるコツ、安定して乗せ続けるコツが必要です。
見た目以上にトリック中の人間は、繊細さを要求される色々な操作を、いくつもこなしています。そしてヨーヨーに詳しい人ほど身に沁みている通り、これだけの操作を覚えるのには、結構な時間がかかります。
皆さんがヨーヨーをやる「原動力」とは、「トリックができた時の楽しさ」ではないでしょうか。
新しいトリックに挑戦し、成功して、また新しいトリックに挑戦し…この繰り返しかと思います。
確かに基礎をしっかり身につけてもらったほうが、その後のトリックで苦労はしにくいでしょう。そのまま長きにわたってヨーヨーを楽しんでもらいやすいと思うでしょう。しかし、ヨーヨーが生きるために絶対に必要なものでない以上、最低限以上に時間を強いるべきでもないとも思っています。
メーカーの技術発展により、初心者からでも扱いやすいヨーヨーが増えました。これは、多くの人がヨーヨーの世界に入り込みやすい、非常に大きな武器です。フルメタルヨーヨーも、そんな武器の一つです。
もし次のトリックに詰まっている人を見かけたときに、必要な技術と知識と練習方法をアドバイスする。今はきっと、そんな形が丸く収まるのではないかと思います。最近、いろんな情報サイトが増え、いろんなショップが増え、いろんな練習会が増え、発信源が増えているのです。まだまだ少ないと思うかもしれません。でも、ヨーヨーを始めるハードルは下がっていて、ヨーヨーを続けてもらえるきっかけも増えていることを忘れてしまうのは、もったいない気がするのです。
無条件でフルメタルヨーヨーを初心者の方に勧めて良いのかといえば、もちろんそうではありません。
(ストリングトリックにおける)私の中での初心者の定義とは、ヨーヨーを始めたての人からバインドを覚える人まで。中級者の定義とは、バインドが10回中8~9回成功する方のことです。世間的な認識も、こういった具合ではないでしょうか。
世の中の九割九分のフルメタルヨーヨーが、その「バインド」というトリックの事前習得が必須です。(動画は検索すればすぐに出てくるかと思います)
では基本的にバインド必須なフルメタルヨーヨーは、バインドができる中級者以上の方から手にとるのが良いのでしょうか。バインドを覚えたいと思ったときから手にとるのが良いのでしょうか。それとも、まずプラスチックのバインド必須のヨーヨーで、バインドをマスターすべきなのでしょうか。
私はフルメタルヨーヨーを、こういった技術面でハードルを設けるべきでないと考えます。もちろんその理由も後述します。
そもそも何故早期にフルメタルヨーヨーを渡すことを避けなければ行けないのか。それは何より「危険」だからです。だから具体的に、どの状態が早期といえて、どの状態が万全といえるかを知っておくことが大切です。
では「危険」とは何か。それはケガの可能性です。ではケガをするのはどういった時か。これは99%が、バインドをミスしたことに気づかずスローして、自分に返ってきた瞬間に起きます。中で絡まっていた状態だったために、投げた勢いがそのまま返ってくるときですね。
バインドというトリックは、その構造上どうしてもストリングが絡むリスクがあるのです。
だから何故バインドでミスをするのかを知り、ミスをすると絡まる(噛む)のかを知り、そのための対策を覚えれば良いのです。
まずミスをする原因は、その多くは手を離すタイミングです。それも大半が「タイミングが早すぎる」ことによって起きます。バインドに慣れていないうちは、ストリングをつまむようにして、ヨーヨーが戻ってくるまで手を離さないようにするのが重要なのです。
次に絡まる(噛む)原因は、ストリングの「離し方」です。離すとき、右手と左手のストリングで交差した状態のままバインドすると、中で絡まる原因となります。これも、慣れないうちは避けたほうが無難です。
この文面だけではよくわからないという方も、これさえ注意しておけば、ケガの可能性を大幅に減らすことができます。
『バインドでヨーヨーを戻したあとは、軽くスローする』
これだけです。私は「(素材に関わらず)ヨーヨーが勢いよくぶつかったらケガをすること」に加え、コレさえしっかり覚えこんでもらえれば、フルメタルヨーヨーを扱うには十分でないかと思っています。
万が一そのままの勢いで返ってきてしまうときも、ケガをしない程度の力でスローしてください。強い力でスローすればほどける、いわゆる「噛んだ」状態で戻ってくるという場合は、それはバインドが完璧にできていない証拠なのです。
つまりこの方法は、ケガの方法だけでなく、バインドの習熟度向上にも役立ちます。
バインド必須のヨーヨーは、まっすぐスローさえすれば、どれだけ軽い力でも、それこそ手を離しただけでも、引き戻しのヨーヨーの数倍か数十倍スリープします。また、バインドをこれから覚えるという方、覚えたてという方に最適な難易度のストリングトリックというのは、それだけのスリープがあれば十分にこなせます。
逆にバインドの原理(絡む理由)を体で判ってないままだと、いくらバインドをやり慣れていようが、大なり小なりケガをするリスクが大きく高まるか、そうでなくともグンと減ることはありません。だから一概に技術という側面を見るのみでハードルを設けるべきでないと考えます。
実はこの方法は、練習会でとあるフルメタルヨーヨーを使って練習している主婦の方から「(フルメタルヨーヨーを)思いっきりスローすることはないですね、十分回りますから」ということを仰っていたのを聞き思いつきました。
フルメタルヨーヨーの使い道は、全力でスローして長いスリープを活かしきることだけではありません。バインド必須のヨーヨーの最大のメリットは、この「どれだけ軽い力であっても、引き戻しのヨーヨーよりスリープさせることが可能」という点にあります。せっかくですから、そのメリットを最大限に活かして練習しましょう。
相当自信がある…というほどではありませんが、私も15年近くヨーヨーをやっている身。それなりにヨーヨーの基礎は身についているつもりです。
最近、時折「フルメタルヨーヨーの性能に頼ってしまうと、基礎がおろそかになる」ということを聞く機会が増えました。
性能に優れている分、技術の向上よりもトリックの習得スピードが速いというのは珍しい話ではありません。私自信も、昔は金属リムのヨーヨーを使って色々なトリックを作り、習得してきました。
そのために起きる一種の弊害として認識されているのが、「基礎の不足によるヨーヨーの挫折」。つまり、最初はフルメタルヨーヨーの力でトリックを習得できていくも、いずれ基礎も完璧でないと習得できないトリックにぶつかったときに挫折する、というもの。
よく聞く例ではあるのですが、個人的に、この認識には疑問を感じます。
疑問を紐解く前に、まず自分自身は『本当に基礎から』練習したのか、ということを振り返ってみましょう。
私は1997年のハイパーヨーヨーブームからヨーヨーを始めました。初めて手にした自分のヨーヨーは「ハイパーブレイン」つまりオートリターン機能付きのモデルです。2010年のハイパーヨーヨーの「クロスドラゴン」に位置するヨーヨーです。
基礎の習得にオートリターンとは最適なチョイスではないか、と思うのではないでしょうか。確かに私はハイパーブレインで基礎を学びました。ロングスリーパーがまともに出来るようになるのに1~2週間はかかりましたが、そこからその他のベーシックトリックはサクサクと習得できました。
しかし技術面ということだけに関していえば、正確には最善の選択ではありませんでした。当時はハイパーインペリアルやハイパーパピヨンといった、金属固定軸のヨーヨーもあったのです。
必死に調整して練習して、大人の力でも10秒回るのが精一杯だった金属固定軸のヨーヨー。それでもベーシックトリックは十分できるのですが、私はハイパーブレインという、同じ力でスローすれば間違いなく倍以上は平気でスリープするヨーヨーで練習していたのです。
ちなみに、1997年当時はプラスチックスプールのヨーヨーはほぼ最上位機種で、ハイパーブレインもOリングを抜くことでオートリターン機能を無効化できました。私もスーパーレベル以降の習得には、Oリングをつけたり外したりしていました。
引き戻しのヨーヨーで練習したほうがトリックがキレイになる、それは当然です。では人間は、トリックがキレイになっていくのが楽しくてヨーヨーをしているのでしょうか。大半の人が、そうではないはずです。
トリックができるから楽しい、という人が大半ではないでしょうか。
ヨーヨーのトリックとは、「それがあるから楽しい」という意味で、ボウリングでのストライクのようなもの。野球ではヒット、サッカーではシュート(ゴール)のようなものです。
ボウリングをやってみたい!という人に対して「じゃあまずは基本姿勢を覚えて素振りから始めよう。100回やってまっすぐになるまでボール投げちゃダメ」と指導する場面は、想像がつかないのではないでしょうか。ふつうは適当に持ちやすい大きさのボールを選んで、最低限の投げ方さえ覚えたら、あとは他人の見よう見まねではありませんか。
どんなものでも、「うまくなりたい」と「やってみたい」は全くの別物です。
少なくとも私は、あの当時ハイパーブレインを手にとったから続けることができたと思っていますし、金属固定軸のヨーヨーからでは続かなかったのではと思っています(ちなみに1年ほどしてからハイパーインペリアルも購入しており、トラピーズとループの練習によく使っていました)。
それは間違いなくトリックの成功が一番の原動力だったからです。トリックの成功無しにヨーヨーを続けるのは非常に難しいのです。何より、奥深いヨーヨーの楽しみを知るきっかけになりました。
時代が進むにつれて、初心者向けのヨーヨーというのはプラスチックスプール、ボールベアリングへと変化を遂げ、いまや国によってはヨーヨー=バインド必須が常識になりつつあるところもあると聞きます。
しかし本当に最初からヨーヨーの構造を完全に把握し、基礎を完璧にするというのであれば、時代を問わず金属固定軸で、トラピーズ有効幅も最低限のものを選ぶべき、ということになるのではないでしょうか。
そして、果たしてそれは現在までに何人が実施し、果たして実際にすべてのヨーヨープレイヤーに強いるべきことなのでしょうか。
少なくとも、私はそうではないと考えます。
そして「基礎の不足によるヨーヨーの挫折」という問題。
これはそもそも「基礎の不足」が原因なのでしょうか。
さきほどから再三「ヨーヨーの楽しさはトリックの成功だ」と唱えていますが、これはあくまで主軸であるに過ぎません。ご飯がずっとステーキだと大半の人は飽きます。仲間と遊んだり、競技会に出たり、フリースタイルを作り披露したり、人によってはモッズやコレクション、最近はクリップビデオといった分野に走る人も居ます。
私は基礎の不足が原因でヨーヨーからはなれてしまうのではなく、ヨーヨーの楽しみ方が限定的過ぎるがゆえにはなれてしまうのではないか、と考えています。
何事にも波があります。好調があれば不調もいずれ訪れます。ならば、例えば競技会に出て勝つことのみがヨーヨーをする目的であれば、負け続けたとき、気持ちは最後まで折れずにすむのでしょうか。
トリックも同じです。いくら基礎があろうとなかろうと、遅かれ早かれ習得ペースは詰まります。その時、もし周りに一緒に練習するヨーヨープレイヤーが居なかったら、自分はどうなっていたでしょうか。
もしフルメタルヨーヨーを手に取るまでヨーヨーに夢中になっていた人に対し、ヨーヨーからはなれてほしくないと思うならば、そんなスランプの解決策を一緒に考じると同時に、ヨーヨーでさまざまな経験ができることを実感させるほうが、よほど効果的ではないかと思います。
今のヨーヨーには数多くのプレイスタイルがあり、ヨーヨー本体には種類もあり、全国には練習会もあり、いろんな様式の大会もあります。インターネットは全国に普及し、どこに居てもヨーヨーの情報・映像が手に入るようになりました。
ほしいタイミングで、ほしい情報を自分で得られる環境作りが進んだからこそ、いまの「競技人口」の増加があるのだと思います。選択肢が豊かになったのですから、せっかくなのでもっと活用していってもらえたらなと思います。
現代競技ヨーヨーのシンボルともいえるフルメタルヨーヨーは、業界に多くのものを与えてくれました。フルメタルヨーヨー以外もそうですが、デザインに優れながら性能も高いこれらのヨーヨーと上手に付き合っていくには、適切な指導方法・手段とはなにかということも含めて、どうすればいいかを改めて考えても良いのかもしれません。基礎が重要であることを忘れてはいけませんが、現在のヨーヨーをその身で味わってもらう貴重な機会を与えることも大切ではないでしょうか。
どんな性質かを知ってもらった上で、好きなヨーヨーでドンドン遊んで、楽しさの一端を味わってもらってから、さらなる上達へのステップへ進んでもらえるための環境ができればいいなと、私は常々思っています。
助言をする側、される側の両方の方々に、参考にしていただければ幸いです。
文:城戸慎也