フリースタイル向けのコラムです。
皆さんはフリースタイルにトリックを組み込む際、何を基準に考えているでしょうか。多くの場合は音や雰囲気に合っているか、見せたい技かどうか、といったことで選んでいるのではないかと思います。
それは間違いではありませんし、「フリー」スタイルというくらいですから、いっそ「見せたい」ということ以外なにも気にしない、という方も居るでしょう。
しかしステージに立ったら、やはり全部のトリックをバシッと成功させて終わりたいのが人間の性。それが難易度の高いものであれば尚更です。限られた時間の中の、限られた瞬間、たった一度のチャンスでトリックが決まる瞬間は格別です。この瞬間のためにヨーヨーをやってきた、とすら思えます。
それに辿り着くために、本当に重視してほしい要素に、私は「成功率」を挙げます。
トリックの成功率は、まず大きく3つに分かれます。
1.練習での成功率
2.フリースタイルの練習での成功率
3.本番のフリースタイルでの成功率
一口に成功率といっても、これだけの種類があります(人によってはこれ以上でしょう)。そしてこれらの成功率というのは、それぞれが別物なのです。
厄介なことに、どれかひとつの成功率が上がったとしても、ほかの成功率が最大限まで高まることは、ほぼありません。ある程度は補助されますが、1には1用の、そして3には3用の練習が必要です。
フリースタイル経験を積んでいる人ほど「練習では失敗したことないのに…」という経験があるはずです。これまでの成功率が100%であっても失敗することがあるのは、こういったカラクリがあるのです。
ではなぜこういったカラクリにはまってしまうのか。それは2の存在が大きく関わってきます。
フリースタイルを披露する日が近づくにつれ、多くの人はフリースタイルの通し練習をします。回数を重ねればミスは減り、日に日に安心感を得られるようになり、落ち着いて本番を迎えられます。
しかしどれだけ、それこそ何万回とフリースタイルを通しても、失敗するときは失敗する。それがフリースタイルです。想定していないミスをしてしまうことは珍しくありません。あくまで可能性を減らせるのみと割り切るのも良いでしょうが、しかしここは少し抗ってみましょう。
成功率を高めるには、あくまで本番を「想定」していなくてはいけません。本番は普段慣れ親しんだ環境ではありません。気温・湿気・照明・床の色・衣装・客席・ジャッジの存在・フリースタイルを始める(MCのコール)タイミング。つまり、使用ヨーヨー以外のほぼすべてが、練習と本番で違う環境で練習しているのではないでしょうか。
練習したつもりになっていても、本番まったく違う環境でプレイするとなれば、実は練習の効果が一気にうすくなってしまうのです。
つまり本番を想定しての練習は、いかに「本番だと失敗しそうな部分」を見つけ出すかが鍵なのです。高い成功率を目指すことも大切ですが、そのせいで油断してしまうこともある、ということを忘れてはいけません。
極端な話、本番で失敗する可能性があるトリックを燻り出すには、経験が一番です。本番はどのような環境下を想像しながら練習できることが、一番の近道です。しかし自分でまだまだ経験不足だと感じる、もしくは初めて競技会にエントリーするといった場合は困りものです。
そこで、少しでも3の成功率を上げたいのであれば、こまめに練習環境を変えるよう意識しましょう。
※この方法は、あくまで私が実施しているとはいえ仮説のものです。可能であれば、専門の知識を持った方から支持を仰いでください。
環境を変えるといっても、そう大きなことをするわけではありません。とても小さな変化だけで、十分に効果を得られます。
フリースタイルをやろうという人であれば、普段練習に使っている場所というのがあるかと思います。その場所を小さく変えるだけでいいのです。後ろを向いたら、明かりの当たり方が違います。背景が違います。床の見え方も変わります。そして、成功率も大きく変わります。
同じ視点=環境で練習していれば、成功率が上がっていくのは当然のことです。そこで、少しでもわかりやすい変化を加えることで、別の環境で練習するに近い練習ができます。そこで数回~数十回成功率が通常通りといえるくらい高くなってきたら、今度は90度回転します。それが終わったらもう一度180度、終わったら違う場所で練習します。できるだけ視界が変わる場所へ移動するのを忘れてはいけません。
部屋の端から端、真ん中、なんなら角に立ってみるのもよいでしょう。しかしスペースはできるだけ大きく取ってください。特に部屋のなかの場合、照明の場所によってヨーヨーやストリングが暗かったり明るすぎたりして見えにくい場所もありますが、それも踏まえて練習します。
ただし最低限の明るさは確保してください。目を痛めたり、ケガをしたりしては元も子もありません。
さまざまな状況になれてきたら、次は自分がもつ個々のトリックの注意点すべてをおさらいします。
本番は緊張で手が震えます。頭が真っ白になるかもしれません。どういった場合であろうとも、練習と完全に同じ心境と体調で本番に臨めることは稀です。競技会の上位入賞者のフリースタイルを見て「緊張していないように見える」と言う方が居ますが、実際は9割以上の人は緊張しています。本番の様子からは想像できないくらいガチガチになってしまっている方だって居ます。
もちろん緊張を抑えるために練習を積んでいるワケですが、同時に「緊張状態で臨む」ことは想定しておいたほうが無難です。
この「緊張状態」がもっとも本番で落とし穴となるところで、普段と同じ力加減ができれば100%成功するトリックを失敗してしまう、もっとも大きな原因です。1Aでとくに多いのはラセレーション系で、基本中の基本と認識されているプラスチックウィップやフックですら、全国大会出場クラスの選手が本番で失敗することは決して珍しいことではありません。
2Aはラップ中に力がゆるんだ瞬間に戻ってきてしまったり、4A・5Aはヨーヨーがすっ飛んでしまったり。ヨーヨーは時にミリ単位の制御を要求されるものです。わずかな手の震えが大きな差となることは、想像に難くないでしょう。
そんな事態を避けるには、漫然とトリックを行うだけでなく、力を入れるポイント・抜くポイント・流す方向を、自分のすべてのトリックで把握しておくようにしましょう。トリックと振り付けを覚えるのも大事ですが、同時に「どの瞬間にどこに力が入って、どのようにヨーヨーをコントロールするか」も非常に大事なのです。それも、全身の加減を覚えます。
私の場合は、フックなどラセレーション系トリックに入るとき、多くの場合1秒(くらいのつもりで)止まって両足に力を入れて軽く踏ん張ってから動作に入るようにしています。止まった瞬間に意識を集中させることで、ふだんゆったりと時間を使って練習しているのと近いシチェーションで、ラセレーションに入りやすくなるのです。
何度も通し練習をして、すべての振り付けで、自分がどのように、どこに力を入れているかを確認してみてください。指や手の向き、腕と肩の角度、首の曲がり具合、足の開き方。要所要所で「こんなに力が入ってたんだ」「こんなに力が抜けていたんだ」というのを、どんなに細かくても良いので発見し、覚えていってください。
どんなトリックでも成功する力加減のパターンは、必ずあります。そうして「全身の力加減」を覚えることができれば、本番と練習の時の両方で、かなり近いクオリティのフリースタイルが出来るようになります。
ここまで努力しても失敗してしまうときは失敗します(よく「グダる」と言いますね)。しかし、やらずに悔やむよりはよっぽど良いというもの。ぜひフリースタイルの練習の際には、「環境をこまめに変える」ことを意識して、どんな状況でも問題ないと自信を持てることを目指してください。
自信はそのまま良いフリースタイルに直結しやすいです。もちろん「フリー」スタイルなのですから、いろんなスタイルがあれば良いのですが、見る人の心を打つフリースタイルというのは、練習量の多さに比例するものです。
緊張するのも思い通りに行かないのも、本番の味です。せっかくですから、それを目一杯味わえるように、目一杯練習しておきましょう。その成果が発揮されたとき、多くの人が取り憑き止まないヨーヨーの醍醐味を味わえる、かもしれません。
文:城戸慎也